「供養」を紐解けば、「日本」が見えてくる?
「針供養」や「人形供養」、果ては「こんにゃく供養」など、日本にはさまざまな種類の「供養」があります。これは「すべての事象や物に神は宿る」と信じられているこの国らしい文化かもしれませんね。しかし、供養って一体どのようなことをしているのか、よくわかっていない人も多いのではないでしょうか。(筆者もその一人です)
この連載は、日本に存在しているさまざまな供養を実際に体験してみる企画です。第一回目は、供養の中でも比較的ポピュラーな印象の「人形供養」を体験してきました。
今回お伺いしたお寺「本寿院」さん
今回「人形供養」を実際に体験させていただいたのは、東京都大田区の環状七号線沿いに佇むお寺「本寿院」さん。都会の中にある会館形式のお寺ですが、天台宗系の流れをくむ由緒正しい歴史ある寺院です。
建物内の本堂には江戸時代に造仏されたお不動様が立ち、人々を災いや病魔から守ってくださっています。右奥には、関東では唯一のお骨佛様(たくさんの方のご遺骨で出来た仏様)の御姿も。本寿院には、宗派に関係なく連日たくさんの方々がお参りにいらっしゃるそうです。
本寿院は滋賀県にある「三井寺」の流れをくみ、「つちぼとけの寺」「水子供養の寺」としても有名なお寺。また、代表の三浦尊明住職は人生仏事の相談室を開設するなどし、国内外の多数のメディアに取り上げられています。今回はそんな本寿院で行われている供養のひとつ、「人形供養」を体験させていただきます。
人形供養とは
人形は、古くは信仰の対象や呪術に使われるなど、宗教的な意味を強く持つ道具のひとつだったそうです。それがやがて子どもの玩具として発達し、江戸時代以降は信仰や行事と結びついて、「子どもに降りかかる厄災を人形が代わりに受けてくれる」という考えが人々の生活に根付きました。子どもの誕生を祝い、家族が子どもにひな人形や武者人形を贈るという日本独自の風習は現代も続いています。
そして、子どもの身代わりに厄災を被ってくれた人形に感謝の思いを込めて供養したのが「人形供養」です。
人形供養と聞くと、「髪が伸びる恐ろしい日本人形を処分したい」「呪いの人形を供養したい」なんて恐ろしいイメージもあるかもしれませんが、住職によればそのような依頼は稀で、ほんの一部だそうです。(少ないとはいえ実際にはあるそうですが……)
人形供養の目的として多いのは、「これまで健やかに成長をさせてくれてありがとう」という人形への感謝、幼くして亡くなった子どもが遊んでいた人形の供養、他者から贈られた人形の処分、などだそうです。
また、「人の形をしているものを捨てることに抵抗がある」「長い間愛情を注いだものだからゴミとして捨てられない」といった理由も多いそう。これは「つくもがみ」に代表されるように、「長く使った物には命が宿る」と考える日本人ならではの考え方かもしれませんね。
実際に人形供養を体験しました
本寿院さんでは、毎月第二日曜日に人形供養の合同法要を行っており、予約をせずに参加することができます。また、人形やぬいぐるみの受付はいつでも可能で、このように毎日受け付けているお寺は珍しいそう。郵送や宅配便での受付も行なっています。
合同法要の際にはさまざまな種類の人形たちがずらりと並び、それぞれの持ち主たちが法要に参加されます。また、個別の法要も承っているので、想いの詰まった人形と個別でしっかりお別れしたい方にはオススメ。今回はこの個別法要をお願いすることにしました。
まずは申込書に必要事項を記入します。申込者の情報とともに、人形との思い出を同席していただいた僧侶に伝えさせていただきました。今回供養するのは、筆者が撮影の仕事で使用してきたぬいぐるみや民芸人形などです。
ぬいぐるみとはいえ、長い間ともに仕事をしてきた戦友たち。物置に入れたままなのもかわいそうだし、ゴミとして処分するのも忍びなく、この機会にしっかりと供養することにしました。
仏様の前に人形たちが並べられ、いよいよ法要がはじまります。住職と僧侶がお経を唱えてくださるなか、参列者は順に焼香していきます。
住職と一緒に筆者も般若心経を声に出して唱えます。人形供養というものがどのようなものなのか最初はイメージがつきませんでしたが、その内容は故人の供養と代わりなく、住職や僧侶たちが私の人形のためにしっかりと供養してくださっているのがとても嬉しく感じました。これで悔いなく彼らとさよならできるかな。
40分ほどで法要は終了し、その後三浦住職による法話を聞くことができます。参加者の皆さんはこの法話にとても感動されるようで、取材として来たにも関わらず、筆者も心がすっきりと軽くなっていることに気がつきました。
供養した人形たちはこのあとお寺でしっかり管理され、処分されます。その一部は年に一度、栃木県日光にある尊星王院にてお焚き上げされます。
まとめ
法要の前室での鈴木僧侶との談話の中で、とても印象に残る言葉がありました。それは、「人形供養に限らず、供養というものは人の心をケアするための儀式」という言葉。持ち主が抱えている苦悩や哀しみから脱するための「きっかけ」をお渡ししているのだとおっしゃっていました。たしかに40分という法要の所要時間は、心の中を整理するには長すぎず短すぎない丁度良い時間だと感じました。
みなさんも、心の片隅にしまっているものをお寺さんで供養されてはいかがでしょうか。当企画では、これからも全国のさまざまな供養を取材していきます。
本寿院(ほんじゅいん)
東京都大田区南馬込1-16-2
03-3772-8889
受付時間AM9:00〜18:00(年中無休)
ご供養料についてはホームページをご確認ください
https://honjyuin.com/ningyoukuyou/
ライター/サカイエヒタ
写真/高山諒
編集/ヒャクマンボルト
Youtube 「人形供養編」供養探訪
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