亡くなったペットの仏壇や骨壷を見ると、どうしても「あの子がもういない」ということを思い出してしまう気がします。
ペット用供養ブランド「Recolle」が大切にするのはお部屋の中になじむこと、とけ込むこと。
無垢素材のおうちや、優しい手触りの洋書の形をした骨壷に入れてあげれば、あの子への思いも優しく落ち着いてくるような気がしませんか。
ほっこりするけど、可愛らしすぎない「Recolle」。どんな方が作られたのでしょうか?今日は、「Recolle」を企画制作した株式会社神原の山口さんとデザイナーの菊池さんに開発までのお話を伺いました。
想いを残すことを大事に
──御社はアルバムや写真の台紙を主力とするメーカーですが、仏具の企画販売を始められたのは、どういったきっかけがあったのでしょうか?
山口 弊社は結婚式などハレの日に使う記念アルバムなどをメインに、思い出を残す事業を企業様向けに100年以上続けてきました。長く事業をやってきた中で、人の想いを残すという点では、ハレの日だけでなく、亡くなった方に対しても同じだという思いに至ったのです。「想いを残す」ことを大事にしていけば、私たちも何か新しいことができるんじゃないか、そう思ってペット用の仏具を企画することにしました。
──人生のさまざまな思い出を残すアルバムと、亡くなったペットを偲ぶための仏具には、底辺に流れる考え方に通じる部分があるのですね。
デザイナーの菊池さんと一緒に制作を始められた経緯も教えていただけますか?
山口 2015年頃に、私がハレの日に使うアルバムをデザインしてくれる方を探していて、菊池さんに声をかけさせていただいたのが出会ったきっかけです。ナチュラルなテイストが良かったことに加え、弊社の凝り固まった部分を、若い力で何か変えてくれるんじゃないかという期待もありました。菊地さんの目線を加えることで、弊社でも新しいものができないかと、お付き合いが始まったんです。
菊池 その後、一緒にお仕事をする中で、山口さんから「これからは供養の分野でも、思いを残す商品を開発していきたい」というお話を伺いました。私自身、山口さんにお会いする前から「旅する仏壇」という商品を個人的に作って発表していたんです。普段は、自分のやっていることを話すことは珍しいんですけど、そこで初めて「旅する仏壇」のことやデザインへの思いを山口さんにお話ししました。
山口 菊池さんのお話を伺って、彼のデザインに対する思いと弊社がやっていこうとしている思いが一致していたので、パートナーとしてできるんじゃないかと思ったんです。それで、まず「旅する仏壇」の販売をサポートすることにしました。そのあとで一緒に新たなもの作りをしようと。
そうやってプロジェクトを進める中で、菊池さんのご紹介で家具職人さんのお力をいただいたり、いろいろな方の力と知恵と思いが結集したのがペット供養ブランド「Recolle」なんです。
──菊池さんが仏具を作ってみようと思われたのには、何か理由があったのでしょうか?また、デザインする中で大切にされている思いとは、どのようなことですか?
菊池 「旅する仏壇」でいうと、僕は高校生の頃に父を亡くしていて、上京してからは帰省した時にしか仏壇に手を合わせる機会がなかったんです。それが申し訳ないというか寂しい気持ちがずっとあって、仏壇の話をちゃんと聞いてみたいと思っていました。
そんな時に、中小企業振興公社主催の「東京手仕事」というイベントで、東京唐木仏壇の伝統工芸士である職人さんたちとお会いする機会があったんです。たくさん質問して、いろんなことを教えていただきました。その中で、「一番大事なのは偲ぶ気持ちで、様式はそこまで重要じゃない」と言われたのがすごく印象的で。仏壇は思っていたよりもずっと自由だと感じました。
じゃあ、自分が仏壇をデザインするなら、持ち運べることを大事にしたいと思いました。僕のように実家を離れて住んでいる場合に、普段は今住んでいる家に置いて、実家へ帰る時には持ち帰って、母と一緒に手を合わせることもできるのも良いんじゃないかと。そうすることで、今よりも偲ぶ機会が広げられると思ったんです。
自然にお部屋になじんで
眺めるたびに優しい気持ちに
──「旅する仏壇」には、菊池さんご自身の体験や思いを反映されていたんですね。
菊池 ペット用の骨壷である「Recolle」シリーズも、同じように自分自身の体験から生まれた部分が大きいんです。数年前に飼っていたハリネズミが亡くなったとき、お骨壷に入れていたのですが、それだと見るたびにあの子が旅立ったということを強く感じてしまい、心が落ち着かなくて。
そこで、もうちょっと優しい気持ちで偲べるような、いい形がないかなと考えていました。その思いを発端に、山口さんと意見交換しながら少しずつイメージを組み立てていきました。
山口 「Recolle」で大事にしているのは、日常に溶け込むこと。お部屋に自然になじむことは、ペットを亡くした方にとって何気ないようでとても大切なことではないかと思っています。
骨壷だからといって必ずリビングの棚の上に置くのでなくても、例えば、玄関でもベッドサイドでも、その子が生前よく過ごしていた場所に置いていただくのもいいと思うんです。大好きだったあの子のことを、これからも優しい気持ちで思い出せるように、場所を選ばない祈りのアイテムを作りたいと考えていました。
──「Recolle」シリーズには、おうちの形をしたHOUSE、洋書風のBOOK、写真立てのFRAMEの3種類がありますね。
菊池 最初に思い浮かんだのは「HOUSE」です。亡くなってもあの子がここにいるよ、ということを表現したくて、おうちの形にしました。実際の制作は、旧知の家具職人 伊藤敦さん(AS.CRAFT FURNITURE)にお願いしています。伊藤さんも以前に飼っていたワンちゃんを亡くされていて、「Recolle」の話をしたらぜひ一緒にやりましょうと。
ですので、「Recolle」は家具制作の技術を活用してつくっています。また、家具工房を営まれている伊藤さんは、いろいろな木材をお持ちなので、どんなお宅にも合うようにウォールナット、ナラ、メープル、チェリーと4種の素材を選べるようにしてはどうかという提案もいただきました。
──無垢材の風合いがとても素敵ですね。写真を使ったBOOKやFRAMEでは、アルバム・写真台紙メーカーである株式会社神原ならではの技術が生かされているそうですね。
山口 弊社のアルバムはすべて職人が手作業で制作していますので、「Recolle」にも手仕事の技術を加えたいという思いがありました。そして、BOOKをつくるときに、その技術をうまくいかすことが出来たんです。
BOOKには素材としてコルクを使っています。コルクの持つ温かみや柔らかい雰囲気と、持ち運ぶときの軽さから、当初からぜひ使いたいと思っていました。ただ、コルクは湿度の影響で大きく伸縮するため、季節によっては写真を固定するアクリルボードが浮いたり、逆に外せなくなったりしてしまう可能性があります。また、BOOKは右側と左側でコルクの厚さが違うので、閉じた状態を保てるように製本するのはとても難しいんですね。
職人さんからも音を上げられるほどでしたが、試行錯誤の末、そういったことを全て解決して無事に商品化できたのは、弊社の高い技術力があったからこそだな、と感じています。
──FRAMEも、思い出の写真を大切にしたいという発想から生まれたのでしょうか?
菊池 FRAMEの原点は、海外のシャドウボックスです。亡くなったワンちゃんや猫ちゃんの写真や首輪など、大きめの額縁に入れて飾るんですが、思い出の物も一緒に残すっていう発想がすごく素敵だなと思いまして。写真とともに大切な思い出として、一部だけでもお骨を骨壷に入れて一緒に飾れないかなと思ったんです。
──BOOKとFRAMEの骨壷、HOUSEのお骨を入れるスペースの内蓋、いずれも真鍮で作られていますね。
菊池 真鍮は経年変化すると、だんだん色が変わっていくんです。大事なペットが亡くなったら、そこで時間が止まってしまうのではなくて、これからも一緒に時間を過ごすことを感じられるようにできたらと思って、敢えて表面加工をしていないんです。
Recolleを通じて、
ペットを亡くされた方に寄り添いたい
──2020年2月には、新たに粉骨サービスも始められましたね。
山口 ペットを亡くした方の立場にもう一度立ち返ったときに私たちは、商品を提供するだけでいいのかな、という疑問が出てきたんです。この小さな骨壷に誰が、どうやってお骨を入れるんだろう、一部のお骨を入れて残ったお骨はどうしましょうと困る方も出てくるかも知れない。それなら私自身が勉強して、弊社で粉骨(お骨をパウダー状に粉砕すること)して、全てセットして差し上げてから、お客様にお渡ししてはどうかと考えたのです。
菊池 実際に購入されたお客様から、お写真とともにメッセージをいただくことがあるのですが、それまでお骨を入れていた骨壷を開けて、新しい骨壷に入れる時、やはりつらかったと言われるんです。それに、手で触って良いのか、何か道具を使ったほうが良いのかわからなかったという話も伺いました。
粉骨オプションは、「Recolle」を通じてペットを亡くされた方の気持ちに寄り添う方法のひとつとして考えています。
新しい「偲びのかたち」の提案も。
山口 粉骨を学ぶ中で分かったこととして、ペットだけでなく、人でも粉骨を必要とされる方が意外と多いということがあります。東京都内だと1万人以上の方の遺骨が、お墓に入らないままご自宅等に置かれているそうです。
その理由としてはお墓が無かったり、納骨堂の抽選待ちだったり、いろいろですが、そういった方々は何となく悪いことをしているのではという気持ちになってしまわれると聞いて。それに墓じまいを検討される方もかなり増えてきています。
菊池 そこで、そういう方に向けて新しい偲び方として、ご自宅で弔うこともできることを提案できないかと「想いの棺」というサービスも始めました。これからも、大切な存在を亡くされた方にどうやったら寄り添えるか、考え続けていきたいと思います。
──どんどん進化していかれて、今後の展開がとても楽しみです。本日はありがとうございました。