「供養」を紐解けば、「日本」が見えてくる?
「針供養」や「人形供養」、果ては「こんにゃく供養」など、日本にはさまざまな種類の「供養」があります。これは「すべての事象や物に神は宿る」と信じられているこの国らしい文化かもしれませんね。しかし、供養って一体どのようなことをしているのか、よくわかっていない人も多いのではないでしょうか。
この連載は、日本に存在しているさまざまな供養を実際に体験してみる企画です。第二回目は、私たちが普段肌身離さず持ち歩いている財布の供養を体験してきました。
今回お伺いしたお寺「天恩山五百羅漢寺」さん
今回「財布供養」を実際に体験させていただいたのは、JR山手線・東急目黒線・東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線目黒駅から徒歩12分、東急目黒線不動前駅から徒歩8分の場所にある「天恩山五百羅漢寺」さん。
天恩山五百羅漢寺は元禄八(1695)年、本所五ツ目(現在の江東区大島)にて創建。松雲元慶禅師が江戸の町を托鉢して集めた浄財をもとに、十数年の歳月をかけて“らかんさん”こと羅漢像を彫りあげました。ちなみに“らかんさん”とは、お釈迦さまの説法を実際に聴き教えのとおりに修行に励んで、煩悩を払い聖者になった、お釈迦さまのお弟子さんのことです。
本堂や羅漢堂にはお寺の名前にもなっている羅漢像が並びます。この羅漢像をかの徳川綱吉や徳川吉宗らも大変気に入り、葛飾北斎の富嶽三十六景にも描かれるなど、江戸の人々に愛されてきました。
その後明治四十一年、明治維新の神仏分離によって起こった廃仏毀釈により目黒に移転。東京大空襲で江戸の文化財をほとんど焼失してしまった東京の地において、今なお305体の羅漢像が現存。これだけ大規模で多くの木造文化財が残っているというのは大変珍しいということから、東京都重要文化財にも指定され、今でも「目黒のらかんさん」として親しまれています。
今回はそんな天恩山五百羅漢寺で行われている供養のひとつ、「財布供養」を体験させていただきました。
財布供養とは
お財布は私たちの日々の生活に欠かせない存在ですよね。財布供養は、そんな大切な財産を守ってくれたお財布に感謝の気持ちをお届けし、新しい財布にも感謝の気持ちを持って接するようにするための儀式です。
財布供養の目的として多いのは「新しい財布を買ったけど、長い間使っていた前の財布は愛着があって何となくゴミ箱には捨てられない」「使わないし置き場所もないし、財布を捨てるなんて金運が下がりそうな気がする」など。「つくもがみ」に代表されるように、日本人は物に魂が宿ると考え、長年持ち歩いた財布は物以上の存在になっているのかもしれません。
財布供養は他の供養と何が違うの?
もともと五百羅漢寺では人形供養を頼まれることが多かったそうですが、そこでお財布供養の要望も受けるようになり2014年ごろより「お財布供養」を開始。毎年3月12日の「サイフの日」を大祭として、年4~5回天赦日(てんしゃび)にお財布供養を行っています。ちなみに財布供養は持ち込みだけでなく郵送でも受け付けており、全国各地から供養して欲しいと集まる財布の数は、年間300〜500個に及ぶそう。
通常のお財布供養では僧侶二人体制で行われ、全国から集まった様々なお財布が並びます。今回は特別に個別でお財布供養をしていただきました。
まずは申込書に必要事項を記入。今回供養するのは、取材スタッフが10年間使っていたというお財布です。仕事もプライベートも波乱万丈だった10年間の思い出が詰まっていて、ゴミとして処分するのも忍びなく、この機会にしっかりと供養しようということになりました。
申込書を記入したら、財布の中に自身の名前を記入した供養札を入れます。堀さんによるとこの供養札には「今までお金を守ってくれたお財布を空っぽのままにするのはかわいそうだから」という想いを込めているそう。
財布供養は、本尊釈迦如来とらかんさんが一堂に会した本堂で行われます。「財布供養は他の供養と何が違うの?」と思っていましたが、その内容は故人の供養と変わらず、お経に耳を傾け、参列者が順に焼香していくというものでした。
20分ほどで法要は終了し、その後お財布やお金についての法話が行われました。
「日本ではお金を円という単位で表しているように、お金は縁を繋いでくれるものと考えられています。お金や冨は自分のところに留めておくのではなく、巡らせていくことで縁を結んでくださる尊いものです。今回のご供養ではこれまで使っていたお財布に感謝の気持ちをお届けしましたが、新しいお財布にもこれまで同様、感謝の気持ちを持って接してください」
そして金運御守「巡冨(じゅんふう)」が参列者に授与されました。「冨」が「巡」るという名の通り、冨は自分の手元に留めず次の人、次の人と巡らせることでご縁が生まれ、金運、幸運が訪れ冨んでいきます。「仏教のお布施もそうですが、無理して自分の冨以上のものを差し出す必要はありません。まずは自分が富んだ上で、余りがあれば人に与えて巡らせてください」と堀さんは言います。
「貧乏で苦労した時代も含め、普段は思い出さないようなあの財布との10年間の思い出が蘇りました。感謝の気持ちをしっかり届けられたと思います」と、財布供養をしたスタッフ。お財布が結んでくれたご縁に想いを馳せていたようです。
供養したお財布はこのあと年末にお焚き上げされます。ちなみに財布の分解作業、財布に入れる供養御札の製作、金運御守「巡冨」の製作は障害者施設に仕事として依頼。五百羅漢寺の財布供養は、障害者雇用・自立支援にも役立ち、まさに「巡冨」を体現したような取り組みになっています。
まとめ
堀さんとの談話の中で、とても印象に残る言葉がありました。それは、「大人になると自分一人の力で生きているような気がしてしまいますが、食事をするにしても電車に乗って移動するにしても、本当は周りの人の支えやご縁があって生きられているもの。財布供養をきっかけにお金に目を向け、そういった支えによって生きられていることに感謝していただければ」というお言葉。財布供養は、日常の生活では意識しないお金が結んでくれたご縁に感謝する良い機会だと感じました。
みなさんも、心の片隅にしまっているものをお寺さんで供養されてはいかがでしょうか。当企画では、これからも全国のさまざまな供養を取材していきます。
天恩山五百羅漢寺(てんおんさんごひゃくらかんじ)
東京都目黒区下目黒3-20-11
03-3792-6751
拝観受付時間AM9:00〜16:30(年中無休)
ご供養料や財布供養日時についてはホームページをご確認ください
ライター/中森りほ
写真/横山英雄
編集/サカイエヒタ(ヒャクマンボルト)
YouTube「供養探訪」財布供養編
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