画像: ハウスボートクラブ所有の小型船舶。船内は長身の男性でも屈まなくていい高さで、ちょうどいいサイズ感。

ハウスボートクラブ所有の小型船舶。船内は長身の男性でも屈まなくていい高さで、ちょうどいいサイズ感。

近年、お墓以外に納骨堂や樹木葬、海や宇宙への散骨など火葬後の選択肢が増えてきています。火葬後のご遺骨を海へ還す海洋葬もそのひとつ。そこで、編集部が実際に「海洋散骨」を体験してきました。その様子をリポートします。

墓じまいが話題になり、自分らしい葬儀を望まれる方も増えたことから、自然に還る散骨に注目が集まってきています。どのようなお別れのセレモニーとなっているのか、東京都にある株式会社ハウスボートクラブ主催の「海洋散骨体験クルーズ」へ編集部が参加してみました。

参加した体験クルーズは、大江戸線「勝どき」駅から徒歩5分ほどにある、朝潮小型船乗り場から出航します。募集人数は20名まで。料金は5,000円(税別)で、乗船料、フリードリンク、デザートブッフェ試食代が含まれています。13時に乗船、約3時間のクルーズへ出航。

船内は椅子とテーブルが並べられ、小さなカフェのような佇まい。スタッフはセレモニーを進行する散骨コーディネーターと船長、船長に何かあった時の副操縦士の計3名が乗船されていました。

画像: 船内の様子。椅子とテーブルは壁サイドに置かれており、ゆったりと過ごせる広さ。

船内の様子。椅子とテーブルは壁サイドに置かれており、ゆったりと過ごせる広さ。

体験クルーズの参加者は、すでに海洋散骨を予約して下見に来られた方や、ご自身の終活のため見学に来られた方など、さまざまです。

まずは、散骨コーディネーターによる海洋散骨の流れや船の設備の説明に続き、船長の挨拶へ。制服でビシッと決めた船長を見ると、一気に出航する気分になりました。

目的地まで、お花を捧げつつ故人を偲ぶ

体験クルーズでは、船長を亡くなったと仮定して、模擬セレモニーを行いました。船内の一角には故・船長の思い出のギターや写真が祭壇のように飾られていました。

出発して10分ほどで細い運河に出ると、波が穏やかに。船長の遺影に一人ずつ献花をしていきます。

画像: 波が穏やかな運河を走っている間は、立ち上がっても足元がふらつかずに、献花することができる。

波が穏やかな運河を走っている間は、立ち上がっても足元がふらつかずに、献花することができる。

また、船内にはモニターがあり、故人との思い出の写真や映像を流して、散骨ポイントに着くまで故人のことを集まったみんなで語り合うこともできます。

散骨する場合は、遺骨を1~2mmのパウダー状に粉砕しなければいけない規定があります。そのため、ハウスボートクラブではオプションとして、粉骨サービスを承っています。大切なお骨はモノではないという思いから、必ず対面でお預かりしているそう。

東京湾へ出ると、東京タワーやレインボーブリッジを眺めながら、散骨ポイントまで、物思いに更けったり、思い出を語り合ったりする時間を過ごせます。スカイデッキでは、風がとても心地よい。

自分の手で最後を見送れる。それが散骨の良さ

画像: レインボーブリッジをくぐり抜け、ずんずん東京湾の中心へ。散骨ポイントは水平線しか見えない

レインボーブリッジをくぐり抜け、ずんずん東京湾の中心へ。散骨ポイントは水平線しか見えない

散骨のベストシーズンは、海の透明度の高さから綺麗な時期は、11月から2月。気候的に心地いいのは、3月から6月。海の好きな方なら夏もいいが、この時期は赤潮や台風の影響を受けやすいので注意が必要とのこと。もちろん、悪天候の場合は安全面を重視し、延期の判断を下す場合もあるそうなので、ハウスボートクラブへご確認ください。

30~40分ほどかけて散骨ポイントに到着。散骨コーディネーターの案内のもと、後方デッキで散骨をします。粉骨されたお骨は、セレモニーに参加した人数分あらかじめ小分けされています。お骨を入れた封筒は水に溶ける水溶紙(スイヨウシ)を使用。一人ずつ、封を切って、海へ。この日は粉骨の代わりに塩で代用しました。珊瑚の粉を使う時もあるといいます。

手元の封筒がだんだん軽くなり、お骨が海に沈んでいく様子を体感すると、寂しさはありつつも、自分の手で散骨することで心に区切りができるような気持ちになりました。

続いて、先ほど船内で献花した花を海へ。環境に配慮し、茎や葉を取った花房と花びらのみを投げます。献酒と食べ物は海洋汚染になるので、どうしてもの時は、一口ぐらいにしましょうとのこと。

散骨コーディネーターさん曰く、「散骨したら元には戻せないので、粉骨してから海洋散骨するまでは、なるべく1週間ほど空けて、全部散骨していいのかをじっくりと考えてもらう時間をとるように勧めています」。

手元に大切な人の遺骨を残しておきたいという場合は、粉骨の際に一部取り分けて手元供養アイテム(小さな骨壺やペンダント式のもの等)に納めておくという方法もあります。そうすると、離れることなく、お家でも大切な方に手を合わせることもできます。

画像: カランと故人にも届くように響き渡る号鐘の音。しんみりする

カランと故人にも届くように響き渡る号鐘の音。しんみりする

全員が海へ散骨したら、スカイデッキに上がります。散骨コーディネーターが、船に設置された鐘を10回鳴らしている間、黙祷を捧げます。

その後、散骨ポイントを中心に3度旋回し、故人様とのお別れの時間となります。

海に漂う花びらを目で追いながら、ゆっくりと回っていく。なんとなく海を見るよりも、ここだとわかる目印になるお花があるのは、意外と大事なのかもしれないと個人的には思いました。これでお別れだと思うと、胸がジーン。

画像: 海に浮かぶ花房と花びら。ゆらゆらと波に乗って遠くへ離れていく。

海に浮かぶ花房と花びら。ゆらゆらと波に乗って遠くへ離れていく。

実際の散骨では、行なったポイントの緯度経度時間を記録した散骨証明書が発行されます。また、ハウスボートクラブでは、ほぼ月1回の割合で、散骨した場所を巡る合同メモリアルクルーズが実施されており、月命日や故人のお誕生日に合わせて再訪することも可能。

帰路では、スカイデッキでカモメにエサやりをしたり、羽田空港の飛行機の発着陸を滑走路の真横から近距離で見学しました。体験クルーズだけでなく、故人を見送ってから、残された方々が笑顔で新しいスタートが切れるように、ご希望に応じて実際の散骨でも実施されています。

なんでも調べられる時代。
自分で体験できたことが大きな収穫

お台場に着いて、カモメと戯れた後は、デザートブッフェでティータイムの中、質疑応答。

体験した方の感想は、
「散骨の知識と、参加してみての違いは、お骨を撒くと、しっかりお別れをしているんだなと思えたこと」
「お骨を収める場所ではなく、お別れ会という要素が強いので、偲ぶための航海という印象でした」

「運河を抜けて、ビルをぬけて、海にでるまで、心が整理される時間になるかも」
「喪主を2回経験しましたが、通夜・告別式は、ばたばたして故人を偲ぶどころではなかったんです。散骨だと、喪主ものんびりできて、同乗する人との時間を共有できるのがいいなと思いました」

「体験してみて、家からのアクセス、船、デッキの様子を自分で体験できたことが大きな収穫」
などなど。

画像: なんでも調べられる時代。 自分で体験できたことが大きな収穫

大切な方のお見送りと、自分自身をどう見送られたいか、2つの視点で考えることが大事だなと思いました。

供養のスタイルは人それぞれ。海洋散骨では、セレモニーを行うことで、心に区切りをつけることができ、帰りには前向きな気持ちになれました。気になる方はお試しくださいね。

ハウスボートクラブ
東京都江東区住吉2-2-4

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