ちょっと変わった終活として密かに注目を浴びる“入棺体験”。最後の姿を彩るエンディングドレスを着て、棺に入って見送られる側の体験を編集部が実際に試してリポートします。
入棺体験を通して自分を見つめ直す
「生きているうちに棺に入ると長生きする…らしい」
そんなウワサがあるそうです。教えてくれたのは、東京・江東区にある終活コミュニティサロン「ブルーオーシャンカフェ」オーナーの村田ますみさん。
ブルーオーシャンカフェでは定期的に「自分を見つめる入棺体験〜棺の中で耳をすませば〜」というワークショップを行っていて、自分を見つめるワークの後で棺に入り、自分で書いた弔辞を読んでもらった後でお坊さんに読経してもらうのだそうです。料金は3,000円でワンドリンク付。
ブルーオーシャンカフェ
自分を見つめる入棺体験
入棺体験では、自分を見つめ直すことで、いつかはやってくる死を前に、これからどう生きるかという前向きな気持ちになったり、漠然とした不安や恐怖を和らげられたり、人それぞれに何かしら感じるものがあるとのこと。また、自分がどういう葬儀をしてほしいかイメージしやすくなるようです。
お伺いした日は、ブルーオシャンカフェのオープン5周年イベントのため、通常とは異なり、お坊さんの読経や弔辞がない代わりに、エンディングドレス(故人が最後のお別れのときに着る服。いわゆる死装束)を着て、入棺体験ができるとのこと。
体験スペースを横目でうかがってみると、女性のお客様がかわるがわる、ドレスを何色にしようか悩んだり、棺に入って写真を撮ったり、楽しそうな雰囲気です。
エンディングドレスは旅立ちを華やかに彩る装い
会場で体験者をサポートされていたのは、大阪でエンディングドレスを製造販売している武田真也さん。「匠-Takumi-」代表の方です。お話を伺ってみると、「最初は棺って聞くと怖がられるんですけど、ドレスに着替えて、いざ棺に入ってみると楽しそうにされるんですよね。女性だと色はピンクが人気ですよ。もちろん男性用のデザインもあります」とのこと。
顔が覆い隠れるベールのついたヘッドドレスは、「自分が亡くなった時のお顔をあまり見られたくないという希望や、故人様を直視するのがつらいという方がお求めになります」。
私は一番人気のデザインという白のドレスを着用させていただきました。着てみると肌に張り付かず、サラサラしていてすごくゆったり。
長い間の闘病で体格が変わられてしまう場合もあるため、エンディングドレスはフリーサイズ。医療に従事されている専門家のアドバイスに基づき、洋服を作る時の約3倍もの生地を使って、どんな方にも着ていただきやすいように作られているそうです。故人のお気に入りだった着物で作って欲しいという相談もあるそうですが、生地が足りないため、代わりに着物の生地を使った小物入れを作り、一緒に棺に入れることもあるとのこと。
また、素材によっては火葬した時にご遺骨に色移りしてしまうこともあるそうで、「匠-Takumi-」のドレスは全てシルクを使用。襟に綿を入れてボリュームを出したり、レース飾りを付けたデザインは、お顔周りを華やかにしてくれます。
入棺してみた感想は…
レインボーカラーの棺はブルーオーシャンカフェのもので、この柄はLGBT尊重を表すシンボルなのだそう。自ら棺に入っていくのは不思議な光景だなと思いつつ、湯船に入るように棺へ。内幕はツルツルとした生地のため、とても滑るので入る時は、細心のご注意を。
棺は標準サイズ。横たわってみると、筆者は身長157cmなので長さは十分に余裕があります。体に沿って手をおくと、壁にぴったり沿うくらい。体格がよい男性も入棺を体験されていて、聞いてみると「思ったほど窮屈ではない」とのことでした。
棺の蓋を閉めてもらうと、顔と蓋は20cmほど隙間があります。窓がないので、最初は真っ暗でしたが、だんだんと暗闇に目が慣れてきました。近くに人がいるということがわかっていたので、恐怖心はあまり感じません。棺の中にいると、外の声は遠くの方から聞こえる感じ。子供の頃に押し入れに入って、そーっと外をうかがっているような気分です。試しに大きな声を出してみましたが、棺の外にいた人には、何か声を出してるなとわかるぐらいだったそう…寂しい。
せっかくなので、1分間目を閉じてみました。ただ、自分を見つめ直すにはあまりに短すぎました。
体験する前は、棺は一緒に火葬されるものだから、この世とあの世の境界線のように感じていました。昨年亡くなった祖母が棺の中にいる姿を見た途端、遠くへ行ったような気分になったものです。
今回やってみて、普段体験できない棺に入れたことで、なんとなく怖いもののように思っていたことが少し怖くなくなり、安堵しました。本来の自分の葬儀では感じられない感覚を体験できたことは良かったと思います。
私の葬儀では、今回棺に入った時の笑顔の写真を貼っておこうと思います。お見送りに来てくれた人がそれを見て笑顔になってくれたらなと、そんなことを思うきっかけになりました。
入棺体験で、あなたはどんなことを思うでしょうか? 気になる方は、ぜひ足を運んで体験してみてくださいね。