滋賀県彦根市で生まれた〈彦根仏壇〉は、もともと武具を製造していた職人たちが作り始めました。それは〈金仏壇〉という漆塗りと金箔押しが施された美しい極楽浄土を表現したお仏壇で、〈工部七職〉と呼ばれる各分野の専門職人たちが、それぞれの技術を結集して作り上げています。その〈彦根仏壇〉の伝統と技術にこだわりながらモダン仏壇を作り上げた、「柒+(ナナプラス)」の方々にお話を伺いました。
彦根仏壇の技を生かした
“自由な祈りのかたち”
──柒+は、2011年2月に結成ということですが、どういう経緯で結成されたのでしょうか。
井上「もともと結成時のメンバーは、滋賀県主催の〈ものづくり感性価値向上支援プロジェクト〉という伝統産業を今のライフスタイルに合わせて商品化することを支援するプロジェクトの参加者なんです。そこではプロダクト開発等についての勉強会が主で、実際にものづくりはしなかったんですね。そこで得た知識を生かして、伝統工芸を使ったライフスタイルに合った仏壇が作れたら面白いんじゃないかという有志が集まって柒+を立ち上げました」
──コンセプトはどう決めていったんですか。
井上「仏壇のマイナスなイメージをみんなで出し合って、なぜ今の生活スタイルに仏壇が受け入れられないのか、ということを考えていきました。そのマイナス点を消していくような商品が作れたら若い人にも受け入れられるんじゃないかな、というところから、我々のコンセプト〈こころ豊かな暮らし〜新しい祈りのかたち〜〉という方向になっていきました。
吉田「2015年に池袋東武百貨店で開催された伝統的工芸品産業振興協会(以下、伝産協会)主催の伝統的工芸品展WAZA2015に出た時に、初めて直接個人のお客様への販売をはじめました。実際に購入されたのは年配の方で。『このくらいのお仏壇みたいな形だったら息子らにもちゃんと見てもらえるかな、私が入るからこれでいいわ』と(笑)」
──私が入るから、なんですね(笑)。
伊藤「自分用に買われるんですよ。娘さん連れてこられて『私の仏壇はこれがいい。これで拝んで』って」
井上「元々はマイホームを持った若い人たちが買ってくれるのかなと思ったんですけど、実際買われた方は60〜70代の年齢層が多かったです」
──デザイナーである乾さんは、途中から参入されたんですね。
井上「2013年からですね。伝産協会が主催した、デザイナーとマッチングして商品を作って展示会に出すというフォーラム事業というのがあるんですね」
伊藤「お見合いみたいな感じで、作り手のところをデザイナーさんがまわってくるんです。そこで話して一緒に作りましょうか、というような」
吉田「出会ってから、デザイナーさんが入って商品化しているものは全部乾さんですね」
──乾さんはもともと仏壇のデザインはされていたんですか。
乾「仏壇は柒+でしかやっていませんね。最初は柒+のコンセプトを聞いて、普通に売っている家具調仏壇みたいな形じゃないんだろうなとは思ったんです。それでまずは、僕が入った時すでにあった商品を見て、もっとこういうものがあったらいいんじゃないかと思うものや足りないものを埋め込むような形で作っていきました。それは今も続いています。シリーズとか幅広いものが揃ってくると魅力が出てくるじゃないですか」
デザインは様々なものから
インスピレーションを得て
──仏壇自体をデザインされたのは〈黒戸〉が最初ですか?
乾「そうですね。その時はオープンな仏壇が多かったので、漆塗りの高級な仏壇で、閉じてまっすぐな直方体になる、リビングに置けるような形にならないかなということで話をしていて。それなら部屋のインテリアの中に置いてもいいだろうし、まあ本当に置くかどうかは別ですが、これならエスプレッソマシーンの隣にあっても自然だろうなと」
その後、扉を開けるタイプのものも作ろうということになって、スライド式の〈赤備え〉〈黒備え〉を作ったり。〈湖望〉のように同じ伝統的工芸品の高岡(富山)の銅板を組み合わせてみたり、〈ほとり〉は高級でかつ多機能なものを作ろうかと」
──〈ほとり〉には、雪見障子のような、という説明がありますね。
乾「僕、雪見障子が好きなんです。向こうに空間があって何かがあるって感じられるところがいいなと思っていて。〈ほとり〉も、そのくらいの存在感でリビングにいる人との関係性が作れるようなものを、と思って作りました。〈かこい〉も沖縄のトートーメーという仏壇からインスピレーションを得て作ったものです。トートーメーは、漆塗りの板に名前を書いて、それを差し込んでいく仏壇なんですが、回出位牌のような形で現代的にデザインできないかなと考えて作りましたね」
──〈かこい〉もそうですが、柒+のお仏壇にはマグネットが埋め込まれているものが多いですよね。仏壇に磁石とか、位牌に磁石っていうのがすごい斬新だなって思ったんですよ。
乾「斬新ですよね(笑)。最初は怒られるかなと思いながら作りましたけどね」
井上「マグネットシリーズは〈かこい〉から始まってますね。すべてマグネットでくっつくように(笑)。〈湖望〉にしろ〈ほとり〉も全部マグネットがつけられるようになっているので」
──マグネットは定番になっていくんでしょうか。
乾「そこまでこだわるわけじゃないですけどね」
漆塗りのモダン仏壇を作っているのは
我々ぐらいかもしれない
──とはいえ、モダン仏壇は伝統工芸の技術は控えている印象がある中で、柒+さんはそれをしっかり取り込んだ形で作られてるところがいいなと思うんですね。やはりそこは意識されていますか。
井上「このあたりは金仏壇の文化なので、やはり漆塗りの仏壇を好まれる方が多いんですね。漆塗りでモダン仏壇を作ってるところは我々くらいしかいないと思うんですよ。なかなかモダンにしにくいんですが、やっぱりそれが差別化だと思っているので。ウォールナットとか白木の仏壇のラインナップももちろんありますけど、そればっかりになっちゃうと彦根金仏壇の産地の良さがなくなってしまうので。〈黒戸〉はその典型ですね」
──塗りを喜ばれるお客様はどういう方ですか。
井上「仏壇=金仏壇、塗りの仏壇、と思われる方は塗りを選ばれますね。家具調のものだと仏壇に思えないという方がけっこういるんですよ」
──そうすると年齢層の高い方になりますか。
吉田「年齢もありますが、やはり地域性ですね」
井上「西のほうの人は仏壇=金仏壇と思われる方が多いです。小さくても漆塗りで、値打ちのある良いものが欲しいっていう感覚があると思いますね」
──位牌も、モダン仏壇の場合は白木で作っているものが多い中、柒+さんの商品は塗りのものが多いですよね。
乾「従来のモダン仏壇の位牌は、もともとの位牌と同じ形だったり、機能性とかもあまり変わらないので、もう少しデザイン的なところから提案できないかなと思って、塗りの位牌を作りました」
井上「札板が塗りっていうのはこだわりですよね」
乾「こだわりです。どうしても彦根の特徴を生かしたいんですよ。実はこのメンバーの中で一番彦根の仏壇っていうのにこだわってるのは僕なんです(笑)」
伊藤「僕もこだわってますよ。木の加工ならどこでもできるし、ただの塗料だったら彦根仏壇何も関係なくなっちゃう。だから漆にはこだわっています」
モダン仏壇の中で
伝統的工芸品マークがついている
──今後はどのように展開していかれる予定ですか。
伊藤「今、伝統的工芸品の認定マークがついた商品を開発しているところです。初めて錺金具を使ったものを作りたいと思っていて、それには蒔絵や螺鈿も施す予定です」
──さらに5~10年先の展望はありますか。
井上「骨壺位牌を考えています。骨壺にもなって位牌にもなるという。なかなかないですよね」
伊藤「蓋を開けると、中にお骨が入れられて」
乾「ガラスの中に漆が塗られてるんです」
──今後さらに伝統技術を使ったものにトライしつつ、ニーズに合ったものも追求されていく感じですか。
乾「関西に多い浄土真宗は位牌を作らず過去帳というのがあるので、それを作れたらいいなと思っていますね」
伊藤「バージョンアップしていく形ですよね」
乾「今のシリーズを見直す時期も来るでしょうね」
井上「あと1都道府県あたり1店舗で販売できるようにしたいと考えています。やっぱり実際に見たいという方がおられるので。今販売をお願いしている各店舗にも、ウェブサイトに載せてもらうのはいいんですがオンラインショップで購入という形にはしないでいただいていますね」
──実際目で見て購入を、ということですね。
井上「そうですね。我々のコンセプトとか作り手の思いを理解して売ってくれるところを探しています。値段も高いものですし、そういう部分は守りながら広げていきたいなと思っています」
彦根仏壇の新スタイル「自由壇(フリーだん)」を仮装的に体験できるアプリ
「バーチャル自由壇」
このアプリでは、「自由壇」のラインアップを仮想的に体験することができます。
・ろうそくや線香に火をつけられます。
・おりんを鳴らせます。
・写真と戒名・名前をカスタマイズできます。
・扉が開閉できます。