「正確には仏壇とは言えませんね」と制作者の古渡章さんは言います。木製の器に思い出の品を納め、語りかけたり、持ち歩ける櫂(KAI)は、故人と私の新しい絆を形作るアイテム。
いつの日か自分が亡くなった時には、この櫂も一緒に火葬して、一緒に消える。そんな想いを形にした古渡さんに話を伺いました。
櫂は故人と私の
新たな世界を創造する
櫂には2つの種類があります。1つは自然樹(庭の木、故人に縁のある樹など)から作られたもの。もう1つは、ヒバの無垢材から削り出して制作されたもの。
2種類の櫂はどちらも、器の中がくり貫かれていて、そこに円筒状の容器が入る仕組みです。その容器に遺骨、遺髪、メモ用紙など故人との思い出の品を納め、特製の閂(せん)で閉じます。倒しても落としても開くことはありません。
片手サイズで、手に馴染む木の温もりと確かな存在感が感じられる。自分だけのものだからこそ、いつでも語りかけたり、どこへでも持ち歩けるようになっています。
━━櫂は、どのような想いを元に作られたのでしょうか?
古渡 例えば、共に暮らした家の庭の木で作る、あるいは、故人と縁のある木で作る。そうすることで、記憶を呼び起こし、故人と自分をつなぐ2人だけの物語が生まれると思うんです。
僕は、母が亡くなった後、台所の片隅に、母が絞った手の跡が残ったままの布巾がカラカラに乾いていたのを見て、なんだか他の何よりも心に刺さりました。実際に買ってくれた方も、母の使っていた雑巾の切れ端を櫂に入れていると言っていました。だから、故人との思い出を入れられるものがいい。
仏壇とは言えないから、櫂という名前をつけましたが、櫂の描く世界観は以前、話題になった「千の風になって」の歌の世界に近いと思っています。どこか遠くというよりも今も近くにいるよ、そんなメッセージを持った歌。
僕は母親が亡くなって思うことは、母と一緒に暮らした日々の記憶ですし、これはこれから母親とどう付き合っていくかっていうそのカタチじゃないですか。しかも僕が元気な間だけここにいてよっていう、その形がいいなと思っているんです。
━━いつも近くに故人を感じるということでしょうか?
古渡 普段の生活の場で身近に持つことで晴れた日は、一緒に近くの公園まで散歩したり、庭でお茶したり、そうした日常の積み重ねが新たな習慣を作るんじゃないかと思うんですよね。
例えば、ぬいぐるみがボロボロになって色褪せても、ちぎれそうになっても、大切にするじゃないですか。櫂を落としても、ごめんねって語りかけたり、そういうかけがえのないものになったら嬉しいですね。
それに、“父と私”とか“母と私”なら、格式はないし、飾りもいらない。最後は自分が始末をつければいいので、誰にも引き継がなくていいんです。僕は子どもがいなくなったら、すっぱりと消えたい。どこで消えようが、結局は自然に還ることなんじゃないかなと思うんです。
この星のどこかに生まれ、終えたらこの星のどこかへ還る。シンプルライフとは、その終わりも含めた思想だと思っています。そのあたりをもうちょっとアピールできたらいいなと。
祈りや供養ではなく
カッコいい、かわいいに
━━どんな方が購入されているんでしょうか?
古渡 櫂を持っている7〜8割方の人は、家に仏壇があるんです。買ってくれた人に、あとで聞いたら、「仏壇はあるけれど、これがほしい」って。僕は仏壇に対して否定的な人がこれを買うって思っていたから、その答えには驚きました。
━━仏壇と合わせて、自分だけの思い出も持たれているんですね。では、制作する上ではどんなところを重視されましたか?
古渡 去年に続き、BEAMS JAPANで櫂を展開するようになって、僕自身の意識がいい意味で大きく変わったんです。展示に関わっていただいた方々や売り場スタッフとの対話を通して、インスパイアされた結果だと思っています。
抵抗なく受け入れてくれる人がいるってことに気がつき始めて。今の時代はより簡素に、シンプルにしていくという方向性もあるんじゃないかと。それで、普通の売り場に置けるよう、祈りも供養の要素も一切入れないで、カッコいいとか、かわいいっていう表現にしていこうと思ったんです。
今は、受け入れられる人と、受け入れられない人に分かれたってかまわなくて。これからこうしたカテゴリーのものが普通にインテリアショップ等に並ぶことを夢見ています。
━━シンプルだけど思いがつまったもの、ですね。
古渡 都市では核家族化が進んでいて、周りに親戚がいなかったりして、親と子の関係が以前より濃密になっているんじゃないかと思うんです。そういう方々に共感してもらえるものとして、ちゃんと想いは反映していかないとだめかなと思っています。
故人を表すような
オリジナルの形
━━今年、新作をだされていますね。
古渡 最初は、木の葉や花びらなど植物の形からインスピレーションを得て、作っていったんですよ。ただ、そのうちに本当の植物の形の多様性に気づいて、それからはかなり自由に作っています。全てが違う表情を持っていて、同じ形はありません。世界に一つのものになっています。
━━この凹凸が滑らかで、気持ちいい手触りですね。
古渡 はい。この尖った形のものは、オーダーで作ったものの一つです。ハーレーで飛び回るような父親だったので、葉っぱのような優しい形は似合わないなぁということで、相談して尖った形にしました。あと、1つの櫂に遺品を収める容器が2つあって、父の分と母の分を一緒に入れられるタイプもあります。
━━今後はどんな展開を考えていますか?
古渡 もっと広く社会に認知してもらえるようになったらいいですね。終活を考えている方に、生前に子どもたちに渡しておけるものだとか、そういう風にも広めていきたいなと思っています。
「櫂」の入手方法
実店舗での取扱
実際に手にとってから決めたい、という方に。
4階のポップカルチャーフロアの一角に、櫂の各シリーズが揃っています。
※ビームスでは、櫂の通信販売のお取り扱いはございません
ビームス ジャパン 新宿 (トーキョー カルチャートby ビームス)
〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目32−6 4F
03-5368-7300
通信販売
既に出来上がっている商品の中から、お好きなものを選ぶことができます。
オーダー制作
ご自宅の庭の木、あるいは故人に縁の木で制作をご希望の場合は、件名に「櫂オーダー希望」、本文にお名前・お電話番号をご記入の上、下記連絡先へお問い合わせください。
オーダーアドレス:kowatt@icloud.com